続き
「とにかく、だんご大家族はやめとけ。一斉に観客から『またかよ!』って突っ込まれるぞ」
「言われますかっ?」
「言われます」
「では、ちゃんとお話を考えましょう」
で、話は振り出しに戻った。
「なぁ岡崎」
「あ?」
「今出た案全部まとめちゃうってのはどうかな」
さすが春原。すぐさま発言する辺り、おそらく何も考えていないであろうと思ったが……まさかここまでとは。
「……一応聞いておく。タイトルは?」
「んん……『ふたりはとなりのだんご大家族』?」
「素敵なタイトルです」
「いや、素敵じゃない上に訳わからないからな。話を戻すぞ」
再びスタートに戻る俺達。
「なんかないかねえ」
「……難しいな」
「……やっぱり、創立者祭のを……」
と、渚が呟く。すると、春原が顔を上げた。
「そうだ、前の劇は渚ちゃんが子供のときに聞いた話が元になっているんだろ?」
「——あ、はい。そうです」
「じゃあ、今度は渚ちゃんが岡崎と会った時の話をすればいいんじゃない?」
……あー、なるほど——って、な、なにぃ!?
「春原……お前なっ——」
「——それですっ!」
今まで聞いたことがない音量で、渚は叫んでいた。一瞬だけ、だんご達が回りを飛び交って入るような幻影すら身に付けて。
「春原さん、すごい良いこと言いましたっ」
春原の手を取りブンブンと振る。嬉しいのか? そんなに嬉しいのか!?
「それ、すごく良いと思います。あの時の朋也くんの言葉、きっとみんなに元気を与えてくれます」
「——あのな、渚」
「少なくとも、わたしは元気になれました」
ブンブン振るのをやめて、俺に向かって振り返る渚。次いで体毎こっちに向き直る。
「朋也くん。あの時のことを、劇にしましょう」
「いや、だって、そんなのみんなの意見を聞かないと駄目だろ」
「あ。そ、そうですけど……」
渚が、一歩だけ引いた。そのまま付け込めば、勝てる。そう思って俺が口を開きかけたとき……。
「心配には及ばないですっ!」
必要以上に自信たっぷりな声が、教室の角から聞こえてきた。三人で、声のした方に視線を向けると……、
「風子がバッチリ聞いてました!」
そこには、角に背中をがっちり嵌めて、高らかに宣言した風子がいた。
「おまえ、いつの間に……」
「話は全部聞かせてもらった」
唐突に部室のドアをガラッと開けて、智代。
「……あの、良い話になると思います……」
「一度聞いて見たかったのよねー。二人のな・れ・そ・め♪」
用具入れにギュウギュウ詰めになっていた藤林姉妹が出てくる。
「とってもたのしみなの」
ボコンっと、備品の段ボール箱から勢いをつけて、何故か頭に迷彩模様のヘルメットを被っていることみが出てきた。
「そのお話で良いと思いますよー」
最後に、外から兄貴肩車五段重ね(って、すげぇ)の頂上で、部室の窓から顔を出した宮沢が賛同する。
っていうかお前ら、いつから隠れていたんだ……。
「朋也くん、ほら」
「み、民主主義のルールにのっとり……」
「では多数決です。朋也くんとわたしが出会ったときの話でいい人っ!」
異様にきびきびした渚の号令で、ざっと上がる9本の手。
「……風子、両手を挙げるな」
「そうよ。この時点でこっちの勝ち決まっているんだから」
——くっ。
「——反対の人っ」
しゅばっとあがる2本の手。
「……風子に言っておいて、自分が両手挙げてますっ」
「……見苦しいわよ。朋也」
「……ほっとけ」
「あの……」
そこで、渚が不安そうに声をかけてきた。
「朋也くん、反対ですか?」
「…………」
「朋也くんが嫌なら、他のお話考えます。だけど……」
……あ〜〜〜、もう。
「……いや、あげ間違えた……」
ゆっくりと、俺は手を下ろした。
「賛成、だ」
「では、満場一致で可決ですっ」
わっと、歓声が上がる。
こうして、演劇部の次期演目が、決定した。
「朋也くん、ありがとうございますっ」
「いや、どーなっても知らないからな。俺は……」
「大丈夫です」
その根拠がどこから出てくるのかわからなかったが、力強く渚は俺の手を握って言った。
「みんなで頑張れば、素敵なものが出来ますから」
Fin.